第74回日本東洋医学会学術総会

ご挨拶

第74回日本東洋医学会学術総会の開催にあたって
テーマ:東洋医学を通した和の構築 ~病人さんに還る~
第74回日本東洋医学会学術総会
会頭 三谷 和男
(奈良県立医科大学大和漢方医学薬学センター 特任教授/
三谷ファミリークリニック 院長)
会頭 三谷和男

 こんにちは。第74回日本東洋医学会総会の会頭を務めさせていただきます三谷です。準備委員長の山崎武俊先生、プログラム委員長の千福貞博先生を中心とした準備委員会のメンバーとともに、参加される先生方の闊達なディスカッションと笑顔をイメージしながら、日々準備に取り組んでいます。

 第74回日本東洋医学会学術総会は、2024年(令和6年)5月31日(金)~6月2日(日)までの3日間、大阪国際会議場にて開催させていただくことになりました。後山尚久先生が会頭を務められた第69回から6年(仙台での学会が一年延期されました)、再び関西での総会です。

 昭和25年3月12日、第1回日本東洋医学会学術総会が慶應義塾大学医学部の図書館で開催されました。当時の会員数は98名でしたが、現在は7,700名を超える先生方に支えられる大きな組織になっています。特に、専門医制度が発足した1990年(平成2年)にはそれまでの3,000名規模だった学会が8,500名となり、翌年には諸先輩方の悲願であった日本医学会加盟も実現しました。漢方薬も1976年(昭和51年)に全面的に保険適応となり、多くの先生方、病人さんがその恩恵に浴すことができる環境も整っています。しかし、日本東洋医学会創立当時の先達の熱い想いに、私たちは答えることができているのでしょうか。

 今回のメインテーマは『東洋医学を通した和の構築』そしてサブテーマを『病人さんに還る』としました。「和」という言葉は日本に古くから根づき、日本人に深く愛される概念です。しかし、「和」は、それまでに分断や闘いがある(あった)という「和ならず」のベースがあるからこそ、生まれた言葉でもあります。過去から現代において、東洋医学にも様々な分断や闘いがありました。東洋医学の世界には流派といわれる様々な考え方が存在します。江戸時代、ある師のところで学んだ弟子は、師から教えられたことは門外不出が不文律でした。現代にもそれは散見されます。ディスカッションは必要不可欠ですが、ポイントが演者の勉強不足、未熟な技術という指摘に留まらず、根本的に他の流派の考え方を相容れないとするだけの反論も数多くありました。しかし、今こそお互いの違いを受け入れ、良いと認めるところを育み合い、「和」を以って東洋医学の灯を未来にも絶やさぬよう、確固たるものにしていかなければなりません。そして、「和」を以って『病人さんに還る』医療となる土台を作っていこうと思います。

 私の師は、来院される方を「患者さん」とは言わず、いつも「病人さん」と表現していました。日本語の妙ですが、「病人さん」には診断名がついた病気だけではなく、その人の人格・人生・生活の背景・こころのありよう全てを含みます。そして、「病人さんに向きあう」意識こそが、漢方診療を行う哲学であり土台なのです。

 さて、漢方医学の学びは、どの時代も、まず師について学ぶ、代表的な古医書を紐解くことからスタートしますが、古典の記述のままでは使えないということで、江戸時代には和田東郭、吉益東洞、有持桂里、原南陽・・・そして尾台榕堂、浅田宗伯らは、多くの口訣を残しました。現代の私たちは、未来の東洋医学を志す方たちに向けて、診療に役立つヒントとなるような口訣を残すことができているでしょうか。

 現代は、サイエンスとしての普遍性と再現性を重視する東洋医学が目指されています。実際に、漢方方剤(生薬一味一味)やひとの病態が分子レベル・遺伝子解析で解明されていきます。東洋医学の「証」でさえ、普遍性・再現性の追求が基本です。その普遍性・再現性の恩恵が病人さんひとりひとりに還っているかというと、そこにはいくつかの隔たりがあると思います。先達の知恵、そして症例を積み重ねてきた現代の私たちの知恵が「具体的な病人さんに和していく道」を見つけることこそ、『東洋医学を通した和の構築』ではないでしょうか。『病人さんに還る』は、私たちの原点です。私たちは、常に病人さんを中心に据えた診療をしています。考え方、向き合い方は違えど多くの優れた「いま」の治療内容が『病人さんに還る』姿勢につながる未来への一歩となること、これを『和』の一文字に托しました。

 現代はウクライナに象徴される世界的な政治体制の分断、三年以上にわたり世の中を大混乱に陥らせたコロナ禍における人と人とのコミュニケーションの分断、こういった目に見える、または見えてこない様々な分断と闘いが顕在化している時代です。『東洋医学を通した和』を示すことによって、それが少しでも時代の流れに投じられる良い一石となることを願ってやみません。

 今回の学術総会は、栗山一道先生が会頭を務められ、すばらしい会となった第73回福岡大会に学び、ハイブリッドでの開催といたします。多くの先生方のご参加を念頭に、関西支部一丸となって『病人さんに還る』学会の準備を進めています。どうぞよろしくお願いします。

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